Z1。電話を今切った。金は返すそうだ。当たり前だ。なんで手元に預かっただけで自分のお金と勘違いできるんだよ。勘違いでなく確信してとぼけているな。俺はプルプルと震えた。寒いのではない。緊張でもない。怒りだった。また電話が鳴った。「プルプル」
Z2。 俺は慌てなかった。すぐ取る事はなかった。どう考えても俺の金だ。返す義務は相手にある。あまりに完全に開き直られて、混乱してた。冷静になろう。深呼吸 とともに振動音に聞き入った。まるで自分の怒りに共振してるかのようだ。留守電まで1コールで取った。「もしもし?」
Z3。 驚いた事に、電話の相手は女性だった。発信者通知は金を返さぬ老獪な確信犯の番号だ。娘でもいたのか。いや、そんなはずはない。これは百戦錬磨の振り込め 詐欺者の演技かもしれない。それにしても演技が上手すぎる。これは本物かもしれない。用件は何だ。「会いませんか?」
Z4。俺の心はぐらついた。金を返すなら誰であろうと会う。しかし、返す訳でなく、今すぐ返せない言い訳を言う為に会いたいというのだ。俺もバカじゃない。言い訳なら電話で十分だ。何らかの魂胆が有ること位は分かる。だが女という事もあり好奇心が勝ってしまった。「よかろう!」
Z5。やってしまった。俺の悪い癖だ。気分が高鳴ると時代劇風の口調になってしまう。正確には時代劇じゃないかもしれない。だが興奮すると、殿の口調になったり家来の口調になったりする。そんな感じだ。周囲の人は驚く。幸い部屋に1人きり。あとは電話越しの相手の反応が問題だ。「よかろう!」
Z6。 はじめての事だ。驚いた様子も見せない。それどころか同じ言葉を返してきた。俺の本能。危険察知のアラームセンサーが起動した。まずい。相手は本気だ。何 に本気かは不明だが。しかし金を返さない相手が悪い。俺は金さえ返ってくれば良い。冷静になろう。唐突に切った。「ツー」